北欧の伝統と長い歴史が詰まった北欧家具。今では世界的なブームになるほどで、新しいデザインの家具を北欧の地から発信し続けています。そんな北欧家具を今の世に送り続けている職人は、実は日本にも多くいるのをご存じでしょうか。本場で本物の北欧家具に触れ学び、その素晴らしさを広めている職人たち。
この記事では、日本で活躍する北欧家具職人をはじめ、本場北欧の地で活躍する家具職人、そして、今の時代を生きる職人たちに影響を与え続けている、北欧家具の基礎を築いた北欧家具の巨匠といわれる職人についてもご紹介していきます。
須藤生
1975年ドイツ・リンダウ生まれの47歳。幼少中に日本に帰国したのち、関東学院大学で機械工学を学び、卒業後はパイプオルガン職人だった父親のもとで、今の基礎になっている木工の技術を学びました。転機が訪れたのは25歳のころ、さらなる技術の向上と勉強のため、2000年にスウェーデン留学。そこで北欧家具と出会い、なんと10年間にわたり北欧家その知識と技術を学びます。2006年には家具職人の資格を取得し、2007年には日本で初めてとなる個展も開き大好評を博しました。2009年に帰国後は、栃木の地に工房「IKURU DESIGN」を設立。2016年には家具職人マイスターの資格も取得し、日本から世界へ北欧家具のすばらしさを発信し続けています。
須藤氏の作品は、日々の生活の中で扱いやすく、シンプルな美しさを兼ね備えたデザイン。使う人に喜んでもらうために、「探しているモノをカタチにすることこそが自分の仕事」と語る須藤氏。お部屋にあるとなぜかホッとするような、優しさあふれる作品の数々は、使ったものを魅了する、そんな魅力が詰まった家具ばかりです。
工房・ショップ名 | IKURU DESIGN |
公式Instagram | https://www.instagram.com/ikurusuto/ |
公式Twitter | https://twitter.com/ikurusuto |
山田 俊太 氏
武蔵野美術大学でデザインを学び、卒業後は北欧家具を中心に扱っている「エイペックス」に就職。その後、家具づくりに必要な基礎を学ぶため内装大工の仕事もしたという山田氏。この経験が今に活かされており、様々な手法を駆使した北欧家具を作り上げています。
細部までこだわったデザインが特徴で、長く使ってほしいという思いを込め丈夫なつくりになっています。特に北欧デザインで彩られた椅子は山田氏の得意とするところ。工房には所狭しとその作品が並べられているということです。「お客様の希望をすべて叶えたい」と語る山田氏。シンプルながら北欧家具ならではの温もりを感じる作風は、私たちの心を癒してくれます。
工房・ショップ名 | Three Birds |
公式Instagram | https://www.instagram.com/ikurusuto/ |
公式Twitter | https://twitter.com/ikurusuto |
高橋 聡 氏
職業訓練校で家具作りの基本を学び、卒業後は北欧ヴィンテージショップで、リペア職人として活躍、その後さらなる技術を学ぶため、家具屋の修理の仕事や木工所などでの仕事を経験し2018年に今の工房「Tukuroi」を設立。現在は奥様と二人で北欧家具の製作と販売を行っています。
北欧家具の巨匠といわれるハンス.J.ウェグナーに影響を受け、気に入って大切に使ってくれ愛着が湧く家具。親から受け継ぎ、世代を超えて長く愛され、使われている家具を作り続けており、シンプルで美しい家具の数々は、多くの利用者から称賛の声があがるほど。今後も北欧家具の素晴らしさを横暴から発信し続けます。
工房・ショップ名 | Tukuroi |
公式Instagram | https://www.instagram.com/tukuroi2018/?hl=ja |
山岸 高光 氏
この道45年の山岸氏。現在は自分で家具を作るほか、その卓越した技術を次の世代へと伝える仕事も行っています。大量生産が当たり前の時代になってからも、すべての行程を手作りにこだわり、自分の技術を試されるような難しい仕事をやり遂げた時に、一番の喜びを感じるという生粋の家具職人です。
そんな山岸氏ですが、北欧家具の本場デンマークから特別にライセンスを受けている職人で、椅子デザイナーの巨匠といわれている「フィン・ユール」の椅子を作っていることでも知られています。北欧デザインの椅子を作らせたら日本でも指折りといわれる山岸氏。「温かみのある木の椅子は、人に一番近い家具」として、その人に合った様々なデザインの椅子を作り上げています。
小澤 崇 氏
飛騨国際工芸学園で家具製作について学び、卒業後は飛騨にある大手家具メーカー大日株式会社に入社。2006年に退社後、2007年にべトナムCERUBO CO,LTD社し退職後2012年に、現在の工房「SWING」を立ち上げ現在に至ります。
小澤氏が作る北欧家具の特徴は、洗練された北欧スタイルを継承しつつも、常にスタイリッシュであること。イタリアにあるチェコッティというメーカーは、伝統的な技法を用いながら繊細でモダンな家具を作っていることで有名ですが、それに通ずるものがあるという評価を得ています。伝統を守りながらもアドリブ性に富んだデザインの家具は、懐かしさを感じながらもこれまで見たことのない、そんな思いにさせてくれます。
工房・ショップ名 | SWING |
公式Instagram | https://www.instagram.com/swing_hida_takayama/ |
島田 晶夫 氏
1971年北海道苫小牧市生まれの51歳。高岡短期大学、現在の富山大学で木工について学んだ後、岐阜や富山の工房やスウェーデン交流センター木工房で修業を積み、1997年にはスウェーデン屈指の名門「カペラゴーデン手工芸学校」に留学し、北欧家具についての技術を学ばれます。帰国後は北海道当別町に工房「design studio shimada」を構え、2007年に日本人としては初となる、スウェーデン家具マイスターの称号を授与された日本で指折りの北欧家具職人として知られています。
木と向き合うことだけを考え、どんな空間にも似合うシンプルな家具を作り上げている島田氏は、木象嵌にも精通しており、日本の直線美と北欧の家具の技術を駆使した家具を基本としながら、木象嵌と北欧デザインの融合した家具づくりにも積極的に取り組んでいます。スウェーデン家具マイスターを手にした職人「島田 晶夫」。北欧家具好きであれば一度はご覧になっていただき、その素晴らしさを実際に体感してほしいですね。
工房・ショップ名 | design studio shimada |
公式Instagram | https://www.instagram.com/swing_hida_takayama/ |
山田 吉雅 氏
フィンランドのビルナスという小さな町で家具職人として腕を振るうのが山田 吉雅氏。日本の大学に在学中は物理学を学んでいたという山田氏。いつからかアートや建築に興味を持ち、卒業後にフィンランドのタンペレ工科大学の建築学部に留学したことをきっかけに、2013年にそのままフィンランドで自らの工房「Mokko Talli」を立ち上げ現在に至ります。
フィンランド最大のデザインフェア「ハビターレデザインフェア」で賞を受賞するなど、その名はフィンランド内でも知られる存在です。独特な感性と確かな技術で作り上げられる北欧家具は、これまでにない独創性の高い家具となっており、見るものを魅了しています。
工房・ショップ名 | Mokko Talli |
公式Instagram | https://www.instagram.com/swing_hida_takayama/ |
浜田 由一 氏
ここでちょっと変わった北欧家具職人をご紹介します。なんと本物の北欧家具のミニチュア家具を精巧に作り上げるという浜田 由一氏。デンマークの巨匠といわれているウェグナーにも認められ、デンマークの自宅にも招かれたという、通常では考えられない神業を見せつける職人さんなんです。
どの作品も五分の一の寸法で作られており、サイズは一寸の狂いもなし。残念ながら実用性はないのですが、コレクションとして買い付ける方が大勢いるほどで、その値段は本物の家具よりも高くなることも。もちろん一つ一つ手作業なので、気の遠くなる作業ですが、それを楽しんでいるという浜田氏。これからも作りたいものを作り、後世に北欧家具の素晴らしさを違った形で伝えていきたいと思いを語っています。
工房・ショップ名 | 浜田工房 |
遠藤 覚 氏
1971年神奈川県生まれの51歳。もともとはサラリーマンとして働いていたが、偶然家具づくりの現場に遭遇し衝撃を受け転職を決意。地元の工房で5年間の修業をしたのち、北欧家具の知識を学ぶため、2007年スウェーデン家具の父と呼ばれるカール・マルムステンが設立した「Capellagården」に3年間留学。帰国後は、自らの工房「enao furniture products」を設立。2016年には念願だったというスウェーデンの家具マイスター資格「Mästarbrev」を取得している北欧家具職人です。
芸術家ではなく職人として、自分が好きなものを作るより、必要とされる家具を製作したいと語る遠藤氏。その人のライフスタイルや望に沿えるようなコンセプト、デザイン、材料を使用し、既存品では表現できない「たった一つだけの家具」を製作しています。現在は工房も10棟まで増え、今後も活躍が期待されています。
工房・ショップ名 | enao furniture products |
公式Instagram | https://www.instagram.com/swing_hida_takayama/ |
高木 博之 氏
1980年富山県生まれの42歳。長岡技術科学大学大学院で創造設計工学を専攻し、卒業後は京都の半導体メーカーに就職。もともとモノを作ることが好きだったという思いがこの頃から膨らみ続け、3年後家具職人になるべく退社し訓練校で1年間勉強したのち、親の代から続く工房「高木家具製作所」の跡を継ぎオーナーとなります。
もともと北欧家具が好きだったことと、大学時代に学んできた機械的な部分を融合させたいという思いもあり、3Dを駆使した設計を行い家具を作り上げていくという。フラッシュ構造と無垢材、どちらの工法でも製作しており、その技術は折り紙付き。2018年には第5回全国合板1枚作品コンペ最優秀賞を受賞しており、今後の活躍が期待される若手北欧家具職人です。
工房・ショップ名 | 高木家具製作所 |
公式Instagram | https://www.instagram.com/takagu_furniture/ |
JUHAN MIKONE(ユハン・ミコネ)
北欧フィンランドのヘルシンキに工房を構え家具を作り続けているJUHAN MIKONE(ユハン・ミコネ)氏は、日本でも仕事をしたことがあるという家具職人。おもに木製のダイニングキッチンを多く手がけており、東京でオープンした「INUA」というレストランのキッチンを製作したことでも知られています。
家具のほとんどはオーク材を使用したもので、優しさあふれるすっきりとした印象の家具が多いのが特徴。日本で出会ったデザインにも感銘を受けており、北欧家具と和風なデザインを織り交ぜた作品も多く発表している。家具を通じて日本とフィンランドのコラボが実現する日もあるかもしれません。
Kari Virtanen(カリ・ヴィルタネン)
1948年フィンランド生まれの74歳。現代の家具職人にも影響を与えている存在として知られるのが、フィンランド人家具職人のKari Virtanen(カリ・ヴィルタネン)です。今フィンランドで一番有名な家具職人として知られ、有名高級家具ブランド「ニカリ」の創始者とも知られており、先日行われたデザイン・フォーラム・フィンランド2022において、最も注目されるカイ・フランク・デザイン賞を受賞したことも大きなニュースとなりました。
14歳から工房で修行を重ね、19歳のときに「ニカリ」を創設。伝統を重んじ現代のデザインと融合させることで素晴らしい作品の数々を生み出してきました。コンパクトでシンプル、木の暖かみを感じるモダンな雰囲気、それでいて実用性も兼ね備えている家具を作り出しています。現在は、若手の精神的支柱としての役割も担っています。
Staffan Holm(スタファン・ホルム)
1977年スウェーデン生まれの45歳。学生の頃に職人技に魅了され、卒業後に工房で4年間家具職人として務めたあと、ヨーテボリにあるHDK大学に入学。卒業した2008年にスタッファンホルムデザインスタジオを設立し現在に至ります。2014年から日本人職人とのコラボレーション作品を発表しており、日本ともつながりが深い家具デザイン作家です。
彼が手がけたテーブル「ニュートン」は世界的に瞬く間に話題となり、一躍トップデザイナーとなった代表作品。その後もスツールの「スピン」「UDON うどん」など様々な作品を発表しています。日本の文化を体験したことで、Staffan Holm(スタファン・ホルム)の作品には日本文化を取り入れているものが多く、日本の伝統工芸とスカンジナビアデザインが織り交ざった、美しい作品が多いのが特徴です。これからも日本つながりを途絶えさせることなく作品を提供していくそうです。
世界が影響を受けた北欧家具の巨匠たち
北欧家具の礎を作った先人たち。今もなお崇拝され影響を残す家具職人が北欧には多くいます。ここからは北欧家具の巨匠と呼ばれ、歴史に名を残した職人を6名紹介していきます。
ハンス・J・ウェグナー(1914-2007)
デンマークを代表する世界的な家具デザイナーの一人で、20世紀を代表する巨匠のひとりが「ハンス・J・ウェグナー」です。創造性と独創性にあふれ、シンプルな美と機能性を追求し、500脚以上の椅子を製作した椅子の巨匠としても知られています。
1949年に北欧家具ブランドの「カール・ハンセン&サン」に椅子のデザインを提供して以来、現在に至るまでその作品は「カール・ハンセン&サン」で製作し続けられており、そのデザインは今も私たちを魅了し続けています。また多くの作品は、ミュンヘンの「ディ・ノイエ・ザムルング」やニューヨークの「MOMA」といった世界的な美術館に展示されるほど。家具職人が影響を受ける一人です。
フィン・ユール(1912-1989)
1950年代に活躍し、デンマークを一躍デザイン大国として世界に広めた功労者が「フィン・ユール」です。自由なモダンアートに影響を受け、それまでになかった独自のデザイン形式を確立。「ペリカンチェア」や「イージーチェアNo.45」「チーフティンチェア」といった代表作を次々と発表し、複雑な曲線で生み出す存在感のある家具は、瞬く間に世界を魅了しました。
名を残す著名な巨匠の中で、現存している作品が最も少ないといわれており、幻の椅子といわれている作品もあるほど。「フィン・ユール」の作品に影響を受けたという職人も多く、特に椅子の製作を得意とする現代の職人には多大な影響を与えている巨匠です。
ヤコブ・ケア(1896-1957)
19世紀に活躍したデンマークを代表する北欧家具の巨匠の一人。家具職人であった父の影響を受け、自らも工房で修行を積み、家具職人としてドイツやフランスで活躍。家具職人最高の称号である「スネーカーマスター」を与えられ、クリスチャンセン&ラーセンのウイリアム・ラーセンを育てるなど、多くの実績を残した一人です。
家具職人として材料や加工などにもこだわり、シンプルなデザインの中にも、よくみると様々な工夫が施されていることが分かり、見えない部分にもこだわった独自の作品を作り上げてきました。代表作である「FNチェア」をはじめ、キャビネットやテーブルにも名作と呼ばれる作品が多く、そのほとんどがデンマークの伝統手法で一つ一つ手作りで作られており、デンマークの工芸品としても認知されています。
ニールス・O・モラー(1920-1982)
こちらも20世紀に活躍したデンマークを代表する、家具デザイナー兼家具職人の「ニールス・O・モラー」。10代のころから家具職人としての修行を積み、24歳の時に自ら「JL Møllers Møbelfabrik」を設立。伝統的なデザインのものから、斬新でスタイルな作品など数多く手がけ、1946年には彼の代表作となる「No.1 Chair」を世に送り出すなど、数多くの名作を残してきました。
彫刻的な作品と評される「ニールス・O・モラー」の作品は、シンプルながら繊細で美しい曲線を活かした作品が多く、デンマーク家具賞も2度受賞しています。また、時代を超越した魅力ある作品は現代に受け継がれ、今もなお「JL Møllers Møbelfabrik」でそのままのデザインで製作され続けています。
カール・マルムステン(1888-1972)
スウェーデンを代表する家具職人の「カール・マルムステン」。プロフェッサーの異名を持ち、スウェーデンの伝統工芸を基本に、スタイリッシュなデザインスタイルを作り出し、「スウェーデンの家具の父」とも称されています。彼の代表作となったチェア「Lilla Åland」は、抜群のバランスと流れるような曲線の美しさで、「カール・マルムステン」が作り出す作品の典型ともいわれているものです。
シンプルで美しいだけでなく、作りや機能を追求した多くの作品を送り出してきた「カール・マルムステン」。70年以上たった今でもそのデザインは多くの若者に脈々と受け継がれ、彼が設立した「ファニチャーデザインスクール」には、世界中から将来有望な若者が集まり、その遺志を継ぐために勉強に励んでいます。スウェーデンを代表する巨匠が作り上げた作品の数々は今後も色褪せることなく、世界中で愛され続けるでしょう。
まとめ
この記事では、北欧家具の職人をご紹介してきました。
日本でも人気を集めている北欧デザイン。そのあたたかみや温もり、木の本質を感じることができる家具の数々は職人あってのものです。北欧家具を愛しているからこそ、購入する人に寄り添った作品を作り続けることができるのでしょうね。またその礎を作り上げた巨匠たちの思いは、今を生きる家具職人にも脈々と受け継がれています。
購入する家具はどんな職人が作り上げたのか知ることで、さらに家具選びが楽しくなるかもしれませんよ。