スムースレザーの革靴を手入れしていると、つま先の艶が日に日に失われている事に気づきます。革靴の命であるつま先には、光輝く光沢を与えてあげましょう。今回は、つま先に紳士な美しさを生み出す鏡面磨きの方法、ハイシャイン仕上げの工程を詳しくご紹介致します。
革靴の鏡面仕上げと鏡面磨き・ハイシャイン仕上げとは
ハイシャインと呼ばれる技法は、主につま先を美しく磨き上げる革靴の手入れ方法です。自分の顔が写るほど磨きあげられたつま先は、とても美しく足元を演出してくれます。鏡のような磨きあげ方を鏡面磨きと呼びます。鏡面磨きの手順を経て、光輝く革靴のハイシャイン仕上げを施します。
ハイシャインの注意点とデメリット
スムースレザーのつま先の美しさを出す為には、リスクをはらんでいる事を忘れないでください。ハイシャインは、いわばパーティーやドレスコードの際に着飾るようなフルメイク・ヘアセットのようなもの。毎日ずっと肌を酷使してしまうと負担がかかってしまいます。
ハイシャインのひび割れ
鏡面磨きに使用する化粧品は油性ワックス。毛穴を塞ぎ表面を研磨し、水分や凹凸をなくす事で美しい光沢を生み出します。クレンジングをせずに、毎日厚い化粧をすると肌はぼろぼろになってしまします。同じように、しっかりとクリーニングをせずに、栄養を与えないでいると革は劣化しひび割れてしまいます。
ハイシャイン仕上げを施したつま先のひび割れは、文字通り鏡やガラスが割れたようにひび割れてしまいます。つま先をぶつけてしまったり、衝撃を与えてしまうと白く細かい稲妻が革靴表面に走ります。大事な革靴を守る為にもしっかりと手入れをし、ケアとメンテナンスを施しましょう。
ダサい革靴をつくらない
ハイシャインは、つま先とかかと部分に施す事で革靴に色気と気品を与えます。もし全体を磨き上げるとなんとも言えないダサい雰囲気が漂い、更にすぐに甲の部分がひび割れてしまします。ハイシャインの範囲を考えましょう。全体の美しい光沢感が好みであれば、コードバンの革靴を選択しましょう。革靴表面の輝きの深さが違います。
鏡面磨きでハイシャインを出す為に使用するクリーム・ワックス
では、鏡面磨きに入りましょう。鏡面磨きに使用するアイテムは、まず基本の手入れに使用する馬毛・豚毛ブラシ、乳化性クリーム・油性クリーム、クロス(綿素材の端切れなど)。そして、ハイシャイン仕上げの為のワックス・ポリッシュと水が2~3滴。更に、クリーナー・リムーバーも用意しましょう。あとはお好みでさまざまなブラシや保湿クリームをご用意ください。
輝くような艶を出したいのであれば、使用するメーカーはサフィールが絶対的におすすめです。ハイシャイン用にワックスやポリッシュを用意するのであれば、フランスの気品とエレガントさを支えてきたサフィールは美しい艶を必ずだせます。今まで他メーカーのワックスやクリームを使用していて、納得ができる艶と出会っていないのであれば、是非サフィールを使用してみてください。
ハイシャイン仕上げの為の手入れ方法・流れと工程
革靴を美しいハイシャイン仕上げにする為の鏡面磨きのやり方を解説していきます。まずは、しっかりと汚れや古いクリームを落としましょう。ブラッシングに加えて、クリーナーやリムーバーを使用したメンテナンスが絶対的に必要になってきます。これは、基本の手入れの方法とは異なる一歩進んだ手入れの手順になります。
美しく仕上げる為の下準備
革靴に、シューキーパー・シューツリーを装着しましょう。仕上がりのムラをなくす為です。シューキーパーの重みで革靴が安定するという利点もあります。靴ひもも外しておきましょう。全体のブラッシングやクリームの塗布がしやすくなります。万が一、靴ひもの先で傷を付けない為の予防の効果もあります。少し手間ですが、この下準備は大事な工程です。
クリーナーの使い方・ハイシャインの落とし方
クリーナーで古いクリームや元のハイシャイン仕上げのポリッシュを落とす事は、とても重要な革靴のクレンジング工程です。古い化粧を落とさないと、栄養も入らず化粧が厚く上塗りされるだけで革表面にも負担です。ブラッシングで落としきれないワックスはクリーナーで落とします。
Step 1 ブラシでしっかり汚れを落とす。
Step 2 クリーナーを塗る
- クリーナーを塗布します。クリーナーをクロスやウエス、要はやわらかい布にとり、全体に薄く伸ばすように塗っていきます。直接革靴にクリーナーをだす事は絶対にしないでください。シミに注意しながら、少量を塗布します。
Step 3 汚れとクリーナーを落とす
- 布のきれいな面でしっかりと全体の汚れとクリーナーをぬぐい取ります。落とした汚れが再び靴に付かないように、布のきれいな面で拭き取ります。細かく何度も触れる布の面積を変えてください。そして、決して革靴を擦らないでください。
この手順を踏めば、本来のすっぴんの革靴になります。しっかりと栄養やカラー、化粧が出来る準備が出来たと言えます。クリーナー自体は革靴に良い成分とは言えないので、頻繁にする事はおすすめしません。
革靴に栄養・保湿・カラーを与える
クリーナーを施した革靴の表面を整えてあげましょう。栄養や水分をしっかり与える乳化性クリームを全体に塗布し、ブラッシングでしっかりとマッサージしましょう。デリケートクリームや栄養を与える事に特化した製品でもかまいません。しっかりとメンテナンスします。
次に、乳化性でも油性でも、カラークリームを使用します。表面のカラーコンディションを整え、全体の仕上がりの効果を上げます。油性クリームの方が艶が出るので、全体を艶っぽくしたいのであれば油性クリームを。つま先の光沢とマットな革靴のコントラストを楽しみたいのであれば、乳化性クリームを。好みと革靴のデザインにより使い分けてください。
しっかりとケアと補色をすることで、革靴の美しさに差がでます。下準備は基本であり、土台つくりです。怠らないようにしましょう。
鏡面磨き・ハイシャイン仕上げの手順
では、つま先に鏡のような艶と光沢を与えていきましょう。工程自体は簡単な手順です。ワックス・ポリッシュ・グロスと各メーカーがハイシャインに特化した商品を販売しています。アイテムは違えど、手順は基本的に同じです。製品が違うと、光沢がでてくるのにかかる時間や、艶の出方が異なります。飴のようだったり、みずみずしかったり、さらっとしていたりとさまざまです。
- Step 1 ワックスを塗布します。指にクロスを巻き、指先部分に少量のワックスをとります。つま先の細かい部分なので、中指と人差し指の二本を巻きます。薄いワックスの膜をつま先に乗せる感覚です。たっぷり塗るのではなく、しっかり馴染ませる事が大切です。かかとも同様に塗布します。ワックスの乾燥具合にもよりますが、つま先が乾いたことを確認してから次へ進みましょう。
- Step 2 水を使って磨き上げます。クロスを巻いた指先に少量の水を付けます。濡らした状態のクロスでワックスを塗った箇所を磨いていきます。強く擦るのではなく、やさしく伸ばしていくイメージです。クロスは、常に水で湿っている事が大切です。小まめに水分をクロスに含ませましょう。
- Step 3 ワックスを塗り、濡れたクロスで磨くという1・2の工程を交互に繰り返します。時間にして最低10分間はこの工程を繰り返します。ベテランになるほど、かかる時間は短く仕上がりが美しいです。つま先とかかとに艶がでるまで、ひたすら磨いていきましょう。
- Step 4 仕上げをします。もしあれば、山羊毛のブラシでやさしく表面を撫でます。少量の水を含ませると馴染みが良いです。山羊毛のブラシではなくても、メイク用のコットンや脱脂綿で表面を撫でるだけで十分です。少量水分を含ませてワックスを塗布した部分を撫で、整えましょう。油っぽさがなくなり透明感がでます。
靴クリームや靴用品の老舗メーカー、株式会社コロンブス さんの鏡面磨き・ハイシャイン仕上げ方法の動画です。やはりテキストで書くのと、動画で見るのではかなり違いますね。ぜひ、プロのお手入れ方法を参考にやってみましょう!
ハイシャイン仕上げの失敗しない為のコツ
工程や手順は以上ですが、コツやアレンジは無限にあります。使用するワックスや磨き方の力加減などで仕上がり方はかわります。鏡面磨きをマスターするのは難しいですが、回数を重ねることによってコツを掴んでいきます。ポイントとして、何点かコツを記載していきます。
ワックスは複数使う事で効果が上がる
ワックスやポリッシュは、複数種類を使い分ける事で効果が上がります。自分に合ったアイテムを探すのもまた楽しみでもあります。ワックスを一種類だけ使用しハイシャイン仕上げにする事が基本ではあります。ただ、アレンジを加える事で、より革靴への愛と手入れの面白さは深まります。
ワックスを複数回に分けて塗布する理由
ワックスは、ハイシャインの手順工程で何度か塗布します。その中で一番最初に塗布する際のワックスは「毛穴を塞ぎ表面を滑らかに整える」という役割も持っています。鏡のようにする為に凹凸を無くすのです。なので、工程の最初の手順は下地・土台をつくる為のワックスの塗布ともいえます。しっかりと艶の層を作っていきましょう。
ワックスを定着させる
一層目に塗布したワックスが乾いていなく、柔らかい状態だと定着はしていません。その状態でワックスを塗り重ねても、うまくはいかないのです。ワックスが定着するのを待ちます。そして、時間をかけてしっかりと磨き上げる事でワックスが定着するのです。
ワックスの定着には、ワックス自体の硬さも大事なポイントです。新品のワックスは柔らかいので塗り重ねるのに時間がかかり難しいです。なので新品のワックスは蓋を開けて有機溶剤を飛ばし、乾かす感覚で放置してみましょう。放置したワックスは1週間以内に回収します。ほこりが入らないように、乾燥具合を数日ごと確認します。
特化型ワックスも販売されている
ブートブラックにはハイシャインベースという商品があります。土台つくりに特化するのであれば、慣れて来た頃に色々な種類のワックスを揃えてみるのも面白いです。そして、ベースがあるという事は、仕上げのトップコートも必要になります。ブートブラックには、ハイシャインコートも販売されています。やわらかめのテクスチャーなので好みは分かれますが、伸びはよいです。そして、サフィールであれば、ミラーグロスが短時間で光沢を出す事が可能です。
ハイシャインとワックスの範囲を守る
せっかくのハイシャイン仕上げも、残念な事に何とも言えないダサさが滲みでてしまう事があります。それは、ハイシャインの「やりすぎ」によるもの。艶の強さではなく、艶の範囲。つまりつま先部分だけではなく、甲の部分、シワの部分にまで到達してしまう程広い範囲を磨く事はやりすぎです。
ワックスを塗布する時の量が多すぎるのも「やりすぎ」です。乾くまで時間がかかる上に、ムラになってしまいます。何度も重ねて層にする事で美しいハイシャインに仕上がります。5~7層、10層程でも良いです。少量をしっかりと重ねていきましょう。
革靴のやわらかい革の部分を鏡面磨きしてしまうと、そこからひび割れを起こします。何事もやりすぎはご法度、控えめで紳士的なハイシャイン仕上げをめざしましょう。
スムーズな作業を心がける
ハイシャイン仕上げは、時間のかかる作業です。ただ、焦って準備や手順を踏んでしまったり長時間放置するのは良くありません。流れるような作業を中断しない為に、事前にしっかりとアイテムの準備をする事が大切です。
ハイシャイン用の布とクロス
ハイシャインは、指に巻くクロスや布、水、ワックスなどが必要になります。布は販売もされていますが、綿100の柔らかいものであれば端切れでも服でも構いません。細長くカットして複数枚準備しておきましょう。ただ、仕上げのクロスは専門店で購入した方がやはり輝きを増します。ハイシャインのつま先部分の仕上げだけでも、クロスを使用しましょう。
ハイシャイン用の水とアイテム
例えば、水は専用のハンドラップ容器が販売されています。ただ、空瓶やワックスの蓋で代用が可能です。ワックスの蓋だと後処理も必要ですが、クリームの空瓶などに水を入れて保存しておけば零れる心配も毎回出し入れする手間も無いのでおすすめです。
体温で馴染ませる
クリームもワックスも、体温に触れることで浸透と馴染みがよくなります。自分の体温で優しく革靴を手入れしてあげると、より早く作業を終わらせる事が可能です。指で直に塗る場合は、爪で傷を付けないように注意しましょう。
ハイシャインを失敗しない為のチェックリスト
以上のコツを守れば、ハイシャインの失敗はほぼないと言えます。うまくいかない場合、最後にもう一度確認してみてください。
- 下地がしっかりと出来ているか。毛穴が埋まり凹凸はないか。
- 塗布するワックスの量が多すぎないか。ワックスは硬さすぎ・柔らかすぎないか。
- クロスで磨くのではなく、拭き取ってしまっていないか。
- 湿らせる水の量が少なくないか。多くないか。
- 革靴のブラッシングと栄養・保湿はしっかりと出来ているか。
- 革靴が新品ではないか。
焦らず、時間をかけて楽しむ事が大切です。何度も磨いている内に、必ず美しい光沢が出て来ます。コツや手順、自分のくせを知り、ハイシャインを極めてみましょう。
ハイシャイン仕上げの為のおすすめワックス
ハイシャインは、頻繁にする革靴の手入れではありません。履いた回数が増え革靴の表情が変わってきたと感じた時や、ここぞという華やかな場面で発揮する仕上げ方です。頻繁に使用するわけではないのに、値段がそこそこなのがシューケア用品の宿命かとも思います。アイテム選びに失敗しない為にも、しっかりとリサーチをし自分の好みを把握しましょう。何点かおすすめをご紹介します。
サフィールノワール・ビーズワックスポリッシュ
- 革靴の上品な輝きには必需品とも言えるサフィール。どの靴磨き職人も使用しています。サフィールとコロニルは世界の二大看板と言えますが、そんなサフィールからはワックスを。このビーズワックスポリッシュは、天然のワックスを使用し革の保護効果があります。油性ワックスは性質上毛穴を塞ぎ通気性がなくなりますが、このビーズワックスは通気性を保ったままなので革靴に優しい逸品です。他には無い、珍しい仕様になっています。安心して使用できるのもポイントが高いです。
サフィールノワール・ミラーグロス
- 先ほども少し触れましたが、こちらは艶出しの鏡面仕上げの為のアイテム。つま先の土台を作った後の二層目から使用します。硬い質感でしっかりと表面を鏡のように磨きあげる、文字通りのミラーグロスです。短時間での輝きと美しい艶は流石と言えます。下地にはやわらかめのワックスの方が毛穴の凹凸に入り込みますので、この硬いワックスは下地つくりには不向きです。
KIWI・シューポリッシュ
- 塗りやすさと乾きやすさの良いポリッシュ。指でも取りやすく、扱いやすさはかなり良いです。ただ、すぐに毛穴が埋まったり表面が光る訳ではないので、少し磨き上げるのに時間がかかります。ただ、強い光沢というよりはあっさりとしたハイシャイン仕上げになるワックスなので、好みによるかと思います。この光沢感が好みであれば、とても使い勝手の良いワックスです。
やはり、サフィールノワールのビーズワックスポリッシュは人気があり定番となります。最初の一缶は、このワックスポリッシュからはじめる事をおすすめします。ワックスは、好みに合わせてあえて乾燥させたりします。製品によって硬さや濃度がそれぞれ違うのです。自分の好みを把握する為にも、基準となるこのワックスが必要です。
ユーチューブで見る鏡面磨きとハイシャインの極意
華麗な手さばきで革靴を美しく仕上げる職人たち。是非、参考にしてみてください。
華麗で繊細な指先から生まれる革靴の光沢は、何度見ても惚れてしまいます。
サフィールミラーグロスの使用レポ。おもしろいです。
ハイシャイン仕上げは、革靴に紳士な色気を持たせてくれます。自分でこだわりと時間をかけて革靴に表情を与える事は、満足と恍惚。ハイシャイン仕上げの魅力と沼に沈んでみてはいかがでしょう。きっと、一味違う革靴との生活が待っています。